シンガポールと福岡のアリス展

今夏にシンガポールのアートサイエンス・ミュージアムで見たAlice in Wonderland展と、冬に福岡市美術館不思議の国のアリス展をやっていたので、比較しながらメモ。。

シンガポールのアリス

まずシンガポール。こちらは結構子供向けで、いくつもあるドアの中から選んで開けて色んな部屋を巡る仕組み。せっかく大小の扉の小部屋を作っているのだから、大きくなったり小さくなったりする仕掛けを作っても良かったのでは。それ以前に、本に出てくるワードプレイの意味を解説するとか、原作に近い仕掛けのほうが好みかな。

マッド・ティーパーティーのインスタレーションも、期待したのだが、テーブルの上に並んでいるお皿に映像を映し出すというだけだった。実際にお茶を出してみるとか、ヤマネが出てくるとかのほうが原作に近くなったのに。

過去の映画化の紹介は参考になった。1933年の作品の、巨大化したアリスがヒトをつまみ出すシーンとか。これは、同じミュージアム内の別の展示Floating Utopiaで見た、巨大化したバニーが何だかかわいくなくて不気味」という作品(鳥光桃代さん)を思い出させる!体が大きくなったり小さくなったりというのは、アリスがオリジナルではないかもしれないが、影響力は大きそう。

展示の最後、アリスの作品とアリスにインスパイアされた作品を編集したビデオAliceographyが良かった。忠実な映画化から、ディズニー、日本のアニメ、そしてきゃりーぱみゅぱみゅまで!

福岡のアリス

www.fukuoka-art-museum.jp

リニューアル後の福岡市美術館へ。個人的にはこちらの方が変なハンズオン的要素がなくて良かった。

珍しい初版本とか原画。にしてもアリス初版は明治維新のころだから、欧米そして日本でも黄金の成長期が始まるころと重なる。『オズの魔法使い』と同じくらいかと思ったら、40年も先立っていたとは。

それにしても、『オズの魔法使い』がまだ普通に思えるほど、ぶっ飛んだ話である。夢を見ている間に冒険に出るというのは今からすると王道だが、わけのわからないことばかり言って全然会話が成立しない変てこお茶会とか、女王が次々に処刑したので誰もいなくなってしまいましたとか、いわゆるシュールな笑いで、ザ・児童文学という感じではない。もちろん、そこがいいのだけど。ジョセフ・キャンベルの言う神話類型に近いようで遠く、いろいろハチャメチャだからこそ、今でもインスパイアされた作品が出てくるのだろう。

原作を以前読んだのは10年くらい前(そのあと黒姫高原アリス記念館みたいなところ黒姫童話館に行った)。『鏡の国のアリス』はきちんと読んだことがなかったが、ハンプティダンプティって鏡の国のアリスの話だったんだ!不思議の国がトランプ、鏡の国はチェスだそうだ。ちなみに、西田ひかる後藤久美子のテレビの国のアリスというのもあったな…。

ルイス・キャロルことチャールズ・ドッジソンはオックスフォード大学の数学者だったので、オックスフォードでは毎年アリス祭りがあるそうな。エビダンス見てみたい!

最初は絵もルイス・キャロルが描くはずだったが、時の評論家ジョン・ラスキンにやめておけと言われて紹介されたのがジョン・テニエルJohn Tennielだった。これが結果として大成功。やはりアリスと言えばあの困り顔である。でもオックスフォード図書館員が言うように、ルイスキャロル自身の挿絵原案もかなりジョン・テニエルのそれに近いものだったのだ。

シンガポールの展示では、ディズニーからきゃりーぱみゅぱみゅに至るまで影響を受けたあらゆるポップス文化をリミックスしたビデオ作品があったが、今回展示されているインスピレーションを受けた作品も良かった。草間彌生のアリスは、意外と親和性が高くて、描きおろしではなく第三者が既存の作品を組み合わせて作ったようにも見えたがどうなのだろう?

個人的なヒットは、チェシャ猫いもむしCheshire CAT-erpillerだ。はらぺこあおむしのまま、表情はチェシャ猫になってる!しかもこのうまいダジャレ・ネーミング!これがエリックカールによる昨年の作品と言うから驚き。顔をチェシャ猫に挿げ替えることで、神出鬼没性を加味したはらぺこあおむしになっている。今風に言えば、コラボというかマッシュアップだ。

サルバドール・ダリの文字通りシュールな絵本やウラジミール・クラヴィヨ=テレプネフによる写真もよかった。

ついでに、リニューアル後の常設展

「虚ろなる母」は、遠くから見るとでっかい黒たまに見えるものが、近づいていくとじつは藍色の空洞になっていて、しかも厚みのある和紙のような外観の作品。東洋的な宇宙観を感じる。しかも母なのに中は空洞というのは、女性性だけでなくすべてを受け入れる無限の懐の深さを感じる。作家はアニッシュ・カプーアというインドの人らしい。

戸谷氏による木の彫刻を30本並べた作品が壮観。1本のときと違って、アクロポリスの宮殿の柱のようにも、雪国の白樺のようにも見えてくるから不思議だ。

日本で初めて磁器の焼成に成功した有田の染付師、柿右衛門の作品はやはり素晴らしい。カンボジアベトナムの磁器も珍しい。当地の博物館などでも、あまり磁器を観た覚えはない。

ゆったりした空間に、ちょっととがった学芸員コメントも添えられていて、独自色と親しみを出そうとしているのが良かった。