Kyotographie2018その4、というかほぼKG+

細見美術館 ジャック・アンリ・ラルティーグ

こちらはKyotographie 2018の関連プログラムで、別の日に訪れた。フランスの作者は、幼いころの仕合せな日々を記録に残しておきたかったという。多感な二十歳の時に第一次大戦となるが、影が差したような作品は皆無で、何気ないが幸せな日常が描かれる。

人の跳躍の瞬間をとらえたような一連の作品や、三兄弟が並んで遊具にこいのぼりのように乗っている作品などが有名なようだが、60年代の作品もお洒落なフランス映画のワンシーンのようで良い。下記のポスターにもある、赤花柄のカーテンに縞模様の影が差し込み、その奥に可憐な女性が座ってこっちを見ている。「アッピア街道」は、シンボリックな木とカモメのような鳥が翼を広げ、アッピア街道の行き先が消失点のようになっている。構図が完璧な絵画のような強烈な印象を残す。

f:id:rycoupdart:20180607015245j:plain

淳風小学校 杉山有希子 Crash

淳風小学校はKG+の数々をまとめてチェックできる。丹波口から徒歩で西本願寺北へ…やっぱ遠いわー。

まず、KG+アウォードでファイナリストとなった杉山さんのSFのような作品群。まるでそれ自体が生態系として動き出しそうなスクラップの塊の、圧倒的な質感。砂漠に放置されたスペースシャトルのような飛行機。居眠りしている人の顔から吹き出しが出ているように見えなくもない。森の中で朽ち果てた燃費悪そうな70年代の車。なぜか、見たこともないはずなのに、私たちの記憶を遠くたどってくれるようだ。

工業化によって人間は自然と共生しなくなり、自然を対象化して破壊するようになった、とはよく言われるが、ことはそんなシンプルではない。自然物と人工物、その境界はとても多様な形態を持ちうることに気づかされる。

むしろ人工物がその役割を終えて自然に戻ろうとするときに、私たちと自然とをつないでくれるのかもしれない。いや、彼らは戻ろうとしてもなかなか戻れないことで、その存在を私たちに知らしめてくれるのかもしれない。卑近な話だが、「ピアノの森」で、かつては超絶ピアニストが所有していたが、彼の夢が絶たれたのと同時に森に打ち捨てられたピアノのようだ。

www.yukikosugiyama.com

顧剣亨 utopia

主人公は4人の男性だが、彼らが画面に占める面積はごくわずかで、少し霞のかかった海と遠くの山々がのしかかる。一見してユートピアではないし、でもディストピアでもない。これは私たちが住む不完全な社会(カコトピア)で、楽観も悲観もせずに、でも今日よりちょっと良い明日を追い求める私たちそのものの姿だ。グランプリおめでとうございます:)

Nicola Auvrey

カナダで神々しく輝く一つの事務所前のベンチに座り続ける娼婦Lisaのクロノロジー。もう二度と会うことはないであろう、全然違う人生を歩む人との一期一会。

部屋の奥にある机上の作品集Attractions Nocturnesが素晴らしかった。特にモノクロのトンネルの真ん中にかすかな人影が残る一枚は印象に残る。人影がかすれることで、過去・現在・未来を行き来する人のように見えてくる。被写体は単なる木だったり、扉だったりだが、幻想的で、夜の光の中に神々しく浮かび上がる姿が映画、それもヴィム・ヴェンダースの作品のワンシーンのようだ。

フランス出身NY在住のアーティストが話しかけてきた。彼は会場に積極的に赴いて来場者と交流することで、いろんな気づきを得ると言っていた。私も仕事で、プレゼンテーションの準備を兼ねてしゃべっていると、論理的に変な部分とか新しい視点とかに気づいて得るもの多いから、そんな感じなのかなぁと共感できた。連絡先を交換して、新幹線出発が1時間後に迫って来たので、五月雨の中を足早に去った。

Nicolas Auvray | Official website of NYC-based photographer

というわけでKG+は、杉山さんとNicolaさんがよかったです。

やはり今回も来て良かった。ありがとうございます、KyotographieとKG+のみなさん!