Kyotographie 2018 その2

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建仁寺両足院 中川幸夫

生誕100周年とは思えないほど自由で現代的で突き抜けた発想の生け花の写真パネルが、畳の上に並べられている。枯れかけた花も見事に生けられている。白菜を立てて生けたような作品は、故宮博物院の白菜を思い出した。もはや原形をとどめていない真っ赤なカタマリなど、ぎょっとするのもあってすべてを好きにはなれないけれど。

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両足院の会場は、庭園を通って離れにも展示があり、こちらも例年通り静謐な空間を生かした印象的なもの。小さなふすまを開け放ったところから花びらの流れができており、それを視線で追うと、中川の作品が床の間に飾られているという仕掛け。もう一つの離れには、花で作った真っ赤な聖書の写真の前に、豪華絢爛な蘭が生けられている。中川の作品は生け花を通じて過去と現在と未来とをつなげているという趣旨の解説があったが、インスタレーションと組み合わせることで、現在の「今この瞬間」だけの香りを通じて、私たちが生きているという感覚までつなげてくれるのだ(大げさかな?)。

ASPHODEL 宮崎いず美

寿司をおかっぱ頭に乗っけたり、リンゴの皮をカミソリでむいたり、いわゆるシュールな自画像。独創的で面白いのは確かで、注目されているのも理解できるのだけど、うーん、自分の部屋に飾りたいかと言われると…。ブロッコリーの雲の背景は、こないだ見た田中達也さんの作品のよう。

ご本人の作品集後書きによると、かわいいだの頭良いだのスポーツできるだの、才能にあふれる他の人に埋もれてしまう自分よ、落ち込まずにがんばれ、的な発想だったそう。今年のテーマUpそのものの、上昇志向だ(そういえばREMの90年代のアルバムにも同じタイトルのものがあった)。必ずしもポジティブシンキングではない、でもがんばろうみたいな、うるさ過ぎない中庸な上昇志向に共感できます。比べるのは他人じゃなくて、過去や昨日の自分。

Up

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ギャラリーギャラリー

さてこちらは番外編というかKG+です。四条河原町を南に行ったところにある1927年完成の寿ビルディング。金融業が入っていたが、1929年の恐慌でテナントビルになり、解体の危機に会いながらも現存しているとのこと。ここの5階は子供向け本屋とかギャラリーとかの小部屋がある。こういう空間が大切に使われているのはいいなぁ。京都の街を形作っているのは、寺社でも町屋でもなく、実はこういう近代建築だったりするのだ。

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京都 近代の記憶

京都 近代の記憶

展示は、写真と布が出会ったらどうなるかという趣旨で、彼らはそれをPhoTEXと呼んでいる。写真プリントTシャツをさらに繊細に推し進めた作品群は、どれもきれいです。もしかしたら出展アーティストは既に考えているかもしれないけれど、かすりとか着物とか、伝統的な織物と写真プリントという組み合わせも面白いんじゃないかしら。もちろん、何でも突飛な組み合わせを考えればよいわけではないのでモチーフは慎重に選ぶ必要があるけれど。

あと、写真×布という組み合わせでいえば、2016年のKG+に出展していた水渡嘉昭さんは、布にプリントしてまるで庭に洗濯物を干すかのようにラテンアメリカの街風景を展示して、爽やかな風にそよぐ感じを見事に再現されていた。

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Gallery PARC 守屋友樹

こちらもKG+。室町蛸薬師を少し北に行ったとこにあるギャラリー。イノシシが現れた神戸市内の閑静な住宅地を歩き回って、人もイノシシもいない風景を撮るとどうなるか、という趣旨。人為と自然とのせめぎ合いが続いてきた六甲山付近で、やはりそのせめぎ合いから遭遇するイノシシに注目している。人と自然との境界ってなかなか奥深いので、是非深めていただきたい。

嶋台ギャラリー フランク・ホーヴァット Un moment d’une femme

御年90のイタリア人(当時はイタリア領だったが今はクロアチア領らしい!)がフランスを中心に世界各地でパシャリと撮ってきたファッションデザインや街の風景。パリで通りがかるモデルを鼻の下伸ばして見入るおじさんたちとか、NY地下鉄のドアから見える風船売りのおじさんとか、自分のショーを後ろからこっそり見るココシャネルの影とか、草を売る女性を後ろから写した作品(草が歩いているように見える)とか。

少し離れたところにあるモンドリアン柄のマントの写真は、白黒なのにすぐモンドリアンとわかる。色彩は必須のような気もしていたが、実は構造が重要だったのかも。

アンリカルティエブレッソンのような、瞬間を切り取るすごさは感じないけど、2016年に京都市美術館別館でやってた「コンデナスト社のファッション写真でみる100年」同様、ファッション写真の変遷としても面白い。

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